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日々の仕事に必要な調べ物の結果や個人的見解を備忘録的に書いておくと他の人に役立つこともあるかも、くらいのノリで。対象範囲は人口構造、社会保障費、都市計画、行政運営、地方自治あたりになろうかと。

色々と誤解されそうな本/M.E.ガーバー「はじめの一歩を踏み出そう」

  やっと読んだけど、タイトルをはじめ、ちょっと誤解されそうな本だと思った。

はじめの一歩を踏み出そう―成功する人たちの起業術

はじめの一歩を踏み出そう―成功する人たちの起業術

 

 

 原題は、「The E-Myth Revisited: Why Most Small Businesses Don't Work and What to Do About It」で、E-Mythとは著者のガーバー氏が経営するコンサル会社の名前でもあり、「Entrepreneur Myth」(起業家の神話)の意味だと本文中でも紹介されているのだけれど、これは起業のための本と言うよりも、原題の副題にある「スモールビジネスがなぜうまくいかないか、どう対処すべきか」の本だと思う。

※そこがつまり、華々しい起業家の神話に惑わされず、地道な経営をしよう、という主張なのだろうけど

 

 本書の主人公、サラがおばさんから受け継いだパイか何かの店を営む小規模事業主であるように、別に起業家でなくても、むしろ親とかから個人事業を継承したような商店主や職人が読むべきなのではないか、と思った。

 

 もちろん、既に事業を始めてから、この問題にブチ当たるより、創業前にこの視点を持って準備を進められた方が、はるかにスムーズに事業を進められるのだろう。

 それに、今の日本で、独立・企業をする人の大半は、プログラマやグラフィッカーのような、IT分野ではあっても、結局、自分の技術力を頼りに独立しようとするような、職人的な仕事をする人たちなので、それらの起業志望者向けに設定したタイトルなのかもしれないけれど。

 

 もう1つの違和感は、この本がフランチャイズ化や、事業の売却を目標にしているように思えてしまうこと。

 マニュアル化を徹底すると、従業員のモチベーションを逆に低下させるのではないか、という話題にもそれなりの紙幅を割いているので、おそらく本当の主張は少し違うのだろうけれど、ビジネスモデルを作ってそれを他人に売るのが一番、儲かる、と言っているようにも読めた。

 多分、本当の主張は、ビジネスがちゃんと回っているかどうかを常に検証し、改善を加えていくためには、なるべく曖昧さをなくして、論理的な仕組みに落としていく必要がある、という点にあって、結果的に、十分にシステム化された仕事であれば、自分がいなくても成立可能だ、という論理なのだろう、とも思うのだけど。

 あるいは、自分がいなくても回る仕組み、と言うのは、自分がいないときに、スタッフがお客様に対して間違った印象を与えないために、システム化が必要、という話にも読めるのだけれど、それにしたって、事業の大規模化やスタッフを雇うことに興味がない人間はどうするんだ、という話な訳で。

 

 多分、起業をしたくなる人は、他の誰かではない自分でなければできない仕事をやりたい、のだろうけれど、それならスポンサー/パトロンを見つけて、職人や作家として生きていく方が正しくて、経営者になりたいのであれば、たとえ、個人事業主であっても、なるべく事業をシステムに落としていくことが必要であり、システムに落とす能力こそが他人にない自分の強みだと思える人が起業を目指すべき、という主張なのか、とも思った。

 もっとも、論理的に検証可能なシステムに落とせるものが正義、というのは所詮、近代西洋科学の発想であって、そこも疑ってみる必要はあるだろうけれど。