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日々の仕事に必要な調べ物の結果や個人的見解を備忘録的に書いておくと他の人に役立つこともあるかも、くらいのノリで。対象範囲は人口構造、社会保障費、都市計画、行政運営、地方自治あたりになろうかと。

ソリッドな場所づくり論/影山知明「ゆっくり、いそげ」

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 ここ数年のまちづくりとか、コミュニティ・デザイン、あるいは地域おこし系の議論を聴いてると、どうしても、ゆるふわなトーンに、戸惑いを覚えてしまう自分がいる訳で。

 「お金じゃだけじゃない世界」、「数値化できない価値」みたいな話を持ち出されても、何だか、共産主義の亡霊を見ているようで(そもそも一定年齢より上の日本の市民活動系人材に左寄りの人が多い、とか、赤っぽい思想と社会福祉みたいな考え方の親和性が高いって現実はあるにもせよ)、それで本当に市場経済に対抗できますか? という疑問を払しょくしてくれない限りは、そっちサイドには立てないぜ、と創業者社長の赤貧家族育ちとしては思わずにはおれず。

 ソーシャルビジネスのスタートアップとか、そんな簡単なもんじゃないっすよ、と。

 

 いや、たとえば、機械工学の分野でも、昔はエンジンの性能を表すのに「馬力」って、それこそ、馬一頭と比較していた時代があったのが、いまや、ちょっとした小型自動車でも100馬力(≒馬100頭分!)くらいは余裕で出せる時代で、自動車では馬力は最高速度に影響してくるのだけど、日本の高速道路の巡航速度を楽々出して、各メーカーの自主規制最高速度(180km/h)さえも、普通に出せてしまう。

 となると、出力はもういいよって話で、それ以外の性能も求められて、騒音や振動、排気ガス、耐用年数、生産コスト、そして、何よりも燃費とかも重視される時代になっている。

 でも、それらは、基本的に数値化可能な価値で、数字で表現することができるからこそ、計測し、比較することができる、と言うことの重要性は、この間の「単位展」を見てきても思ったところ。

 数値化できない価値、ではなくて、1個の指標だけに捉われずに、多変数方程式として解けばいいだけじゃないの?

 もちろん、数字に落としたところで、方程式の数が構成する変数を表現しきるには足りなくて、しっかりと確定はできず、適当なところでバランスさせなきゃ、みたいな問題は、どこまで行ってもあると思うので、あんまり精緻に突き詰めて考える必要もないと思うのだけど。

 

 そういう中では、この「ゆっくり、いそげ」は明確に指標化まではしていないものの、それでも、ゆるふわした場所づくり論があふれる中にあっては、しっかりと、論理立てて、物事を捉えよう、としている感じがあって、好感が持てました。 

ゆっくり、いそげ ~カフェからはじめる人を手段化しない経済~

ゆっくり、いそげ ~カフェからはじめる人を手段化しない経済~

 

 

 著者の影山さん、東大法学部→マッキンゼーベンチャーキャピタル設立→喫茶店経営、ということで、納得の経歴。

 分かりやすい指標を設定した組織が、なぜ成長できるのか、しかし、成長した大きな組織、あるいは仕組みが硬直してしまい、弾力性を失ってしまうのは、なぜなのか、これからの社会が多様性を保っていくために、個人の自由をどう考えていくのか、と言った点で、大変、共感できる内容でした。

 近頃のコミュニティ議論を聴いていると、ともすると陥りがちな昔懐かしの村社会を再起動させる、という意見とは明確に線を引いて、本当に個人の自由を求めた結果、行き着く先としての、孤立ではない、コミュニティをどのように描いていくべきか。

 この本に、その明確な答えがある訳ではないけれど、おそらくは、それを見定めて、追求していく行為、そのものが重要なのかもしれない。

 

 ちょうど東京に出掛ける用事があって、行きの電車の中で読み終わったので、実際にお店にも行ってみました。

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 まあ、なんか、普通の落ち着いたカフェ、だと思います。

 

 ただ、その一方で、これからの時代に、大資本ではなく、地に足着けた小規模事業者が「普通のカフェ」を運営していくことが、どれだけ難しいことで、かつ、どれだけ重要なことか、というのは、感じたりも。