【都市】デトロイト市が破綻したと聞いてデトロイト・ロック・シティを聞いてる
ハード・ロック/ヘヴィ・メタルを聞いている人間としては、デトロイト言えば、やっぱり、KISSである。モータウン・レコード? 何それ、おいしいの? 的な話である。
Kiss - Detroit rock city - YouTube
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とは言え、1977年生まれなので、リアル・タイムでKISS聞いてた訳ではないのだけど、HR/HM界隈では、割と、バンドAに影響を与えた先駆者のBとか、Cジャンルの始祖Dとか、バンドEのメイン・ソングライターFが「楽器を持つキッカケは、バンドG」とか言われると、結構、さかのぼって聞く習性があって、「あー、昔、テレビで見たことあるぞ、この化粧した人たち!」的な感覚で聞いていたら、再結成して来日したり、その名も「デトロイト・ロック・シティ」という映画が制作されたり、という完全な後追いなのだが。
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ここでデトロイト・メタル・シティの話に言及し始めると脱線が著しいので、本題に入ると、今日の朝、ミシガン州デトロイト市が財政破綻した、というニュースが流れていた。
ただ、よくよく見ると、実は3月にはミシガン州への支援要請を行っていて、今回は、ミシガン州が正式に支援しないことを決めた、というニュースらしい。そんなことになっているとは全然、知らなかったけど。
とは言え、4月以来、まちづくり、都市論関係の情報収集をしていると、本やWeb上の記事で、デトロイトのことを目にする機会はあって、しかも、それは全て悪い意味での話ばかりだった。
フォード、クライスラー、GM、それらの傘下にある複数の自動車ブランドが勃興しながら、自動車産業の衰退と共に人口流出が止まらず、街に留まる貧困層は困窮して、犯罪率が悪化し、社会保障費も上昇している街。
そういう目線でデトロイトを振り返ると、80年代なかばにはニュース映像で、日本車や日の丸に火をつけて燃やす人たちを見た記憶がする。あれは多分、デトロイト(か、その周辺の工場地帯)だったのだろう。
90年代後半、機械工学科に在籍した自分は、国産自動車メーカーへの興味は失っていたものの、アメリカの自動車メーカーなど、ハナから眼中にもなかった。当時、フォードは世界中の自動車メーカー株を買い漁っては売り飛ばし(日本のマツダも正式に傘下に入っていた時期)、「ほとんど金融屋」と揶揄する声も聞いた。もちろん、その頃から、本業でも、自動車そのものの販売よりも、その後のローンで利益を得る仕組みは確立していて、そういう意味でも金融屋になっていた。
産業構造の転換に対応するため、自動車会社が業態転換を図ることは、別に悪いことではない。トヨタ自動車は元々、機織機のメーカーだし、ホンダやスズキは二輪車が本業だった。
デトロイトで自動車産業が起きたのも、五大湖の水運を利用した産業集積都市に、(おそらくは、五大湖周辺の鉄鉱山、炭鉱から鉄鋼の供給が容易な街として)船舶産業が勃興し、その金属加工技術や動力機関の製造技術を20世紀初頭に自動車に転用できた街だから、という話もある。
しかし、自動車産業から金融業へ転換した場合、大工場で働く大量の単純労働者は一緒に業態転換についていくことはできない。
そして、皮肉なことに、自動車産業は、T型フォードによるライン生産システムにより、熟練した技能工やエンジニアではなく、単純労働者を大量に抱え込むことになった。そして、その大規模生産施設は都市ではなく、郊外の広大な立地を必要とした。また、さらに自動車の登場そのものが都市の集積を希薄にし、住民の郊外化を推し進めていた。
それがデトロイト転落の理由だとの指摘は、随所でされている。
私が市役所に入って産業振興部署に配属された平成18年。平成9年に制定され、10年間の時限立法として運用されていた集積活性化法が期限切れを間近に控え、代替法案である企業立地促進法が議論されていた。
当時、シャープの亀山工場の「成功」が注目を集めていて、そのモデルを全国に普及させよう、という趣旨の法案…と当時は説明されていたし、ウチの市でも、そのように受け取った。
集積活性化法では、いわゆる「地場産業」と呼ばれる遅くとも戦中までに確立した地元資本企業の振興も対象にしているのに対し、新法では、いわゆる産業空洞化対策として、国内大企業の新工場を国内にとどめるため、地方都市に誘致合戦をさせる、という趣旨の法案…と少なくとも当時の我々、地方の現場担当の目には映った。
うちの市の解答は、今回の新法による支援策には乗らない、というものだった。
まず、団地の造成の費用対効果の面から、用地買収等々のコストを考えると、大規模な造成事業に、そもそも消極的だった。
さらに、元々、うちの市では、外部企業を誘致した実績がほとんどない。昭和40年代からの工業団地の造成にしても、ほとんどが市街地に立地する地元企業を対象として、より広く、幹線道路へのアクセスがよく、多少の騒音・振動・臭気が許容される郊外に立地させる(かつ市内での移転にとどめる)ための措置で、市外企業の立地事例は、ほとんどない。
また、大手企業が進出してくると、給与や福利厚生の面で、地元資本より条件が圧倒的に有利なため、人材難が起きる、との指摘もあった。
この点については、長期的な視点で行政として工場労働者の待遇を考えれば、労働市場の競争を活性化させ、待遇を改善させる利点になるのではないかとも考えられるし、たとえば、市役所職員の給与水準を決定する詭弁として、このレトリックが多用されるのを見たこともある。
しかし、それは詭弁だ。現実には、中小零細企業が大企業に負けないように給与水準を上げることは…対応できたとしても時間がかかるし、そのタイムラグは、しばしば取り返しのつかない壊滅的なインパクトを与えることがある。
より現実的には、地元資本企業は、まず人手不足により労働環境が悪化し、大手企業に能力や素行を理由に入社できなかった人材を受け入れることになり、結果的に労働環境の更なる悪化や低賃金化で、それを乗り切ることになり、外部の人間から見た就職先として、ますます魅力を失っていく。そして、それらの企業に魅力を感じない若者達が独力で新産業を起こす可能性よりも、市外、県外へと就職先を求めて移転していく可能性の方が遥かに高い。
一方、ウチの市には昭和50年代に計画が進められた中心市街地の再開発事業で大手小売チェーンを誘致したものの、都市計画の整備の遅れや、そもそもの出店計画の甘さから、出店後15年くらいで同店が閉店し、同ビルの活用計画や、同社も半額を出資している第3セクターの管理会社の経営を巡る問題を抱えている、という状況でもあった。
地元資本ではない大企業を誘致したところで、この商業ビルと同じにならない保障はない。そして、そうなったとき、地元の雇用はどうなるか。この小売商業施設とは比べものにならないインパクトを与えることになる。
そして、リーマンショック後に、これら企業立地促進法による立地工場がどうなったか。そして、今、デトロイト市がどうなっているか。
少なくとも、産業支援に関する当市の方向性は、万全の正解ではないかもしれないが、2000年代後半の落とし穴を回避したことは、安心してよいのではないだろうか。同じような罠が次に仕掛けられたとき、乗り越えられるかどうかは、全く別の問題だが。
なお、デトロイトの惨状については、実は、こういう話を考えるまでもなく、クリント・イーストウッド監督・主演の映画「グラン・トリノ」(2008年)を見て、やっべー街だなーと思っていたのだが、実際には、その前に白人ラッパー、エミネムの半自伝的映画「8マイル」(2002年)で、エミネム演じるラビットは、自動車会社のプレス工員だったのですよね。
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映画タイトルの「8マイル」というのは、デトロイトの中心部と外縁部を隔てる、その名の通り長さ8マイルに及ぶ直線道路で、日本でいうと東京の環七、環八みたいなものかと思いますが、そこが金持ちと貧民地区の境界でもあり、白人街と黒人街の境界でもあって、エミネムは白人なのに貧民街に住んでいて、でも、黒人たちからも「白人のクセに」と白い目で見られている、という映画。暗い…。
Eminem - Lose Yourself -- OFFICIAL - YouTube
まあ、この映画の公開は2002年だけど、エミネムの半自伝的映画で、エミネムは72年生まれなんで、多分、90年代から、もうずっとあんな感じで衰退してたんだと思います。
と言うことは、没落から破綻まで20年の余裕があると楽観的に見るべきか、緩やかに衰退が始まっても破綻まで20年かかるのでみんな気が付かないだけで、実はもう引き返せない破滅へのカウントダウンが始まってる、と暗い気分で見るべきか。