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日々の仕事に必要な調べ物の結果や個人的見解を備忘録的に書いておくと他の人に役立つこともあるかも、くらいのノリで。対象範囲は人口構造、社会保障費、都市計画、行政運営、地方自治あたりになろうかと。

【都市工学】ジェイン・ジェイコブズ「発展する地域 衰退する地域: 地域が自立するための経済学」読んだ。ちょっと予想と違う展開でしたけど。

 本を読んでいると眠くなるという奇病に冒されておりまして、連休以来、遅々として読書が進まず、ようやく1冊こなしました…。

発展する地域 衰退する地域: 地域が自立するための経済学 (ちくま学芸文庫)

発展する地域 衰退する地域: 地域が自立するための経済学 (ちくま学芸文庫)

 著者のジェイン・ジェイコブズは、実際に市民活動に身を投じたりしながら、20世紀後半のアメリカ都市論を展開した人。と言うことで、結構、期待しながら読み始めたのですけど、ちょっと思ってたのテイストが違った。

 

 個人的には、都市の成り立ちを居住区と商業地域、道路の関係だとかについて述べている本を、つまり、都市を人間の体にたとえるなら、臓器や細胞の成長と衰退を記述する医学や生物学的な視点の本を期待していたのだけど、ここで語られているのは、人間で言うと、社会学や心理学的な、都市と外部との関わり合いを中心とした話。他都市や農村との交易、そして、その指標となる景気や為替が都市の発展や衰亡にどう作用するか、という話。

 

 あくまで仮説の域を出ておらず、論理的な検証がなされている訳ではないし、原著が出版された1986年とは大きく国際情勢が変わってしまっている面もあって、大筋では理解できるのだけれど、現代を生きる私たちの指針として、どこまで参考にできるかは疑問も残った。

 

 著者の主張を自分なりに理解すれば、都市の成立は、それまで他の都市からの輸入に頼っていた財をどこかで模倣し、自ら生産しはじめることによって始まる、と言う。そして、その都市の特性に合わせて改良を加えることで、輸入品にはない競争力を持つようになり、やがて周辺の都市に輸出するようになり、資本の蓄積が始まると、生産設備すらも自前で用意するようになり、新しい品目の生産に着手する。

 一方、当初、周辺に輸出していた都市は、競合を避け、徐々に生産品目を減らしていくと、そこでイノベーションの機会を失い、ゆるやかな衰退に向かう。

 著者によれば、都市の定義とは、あくまでその都市の独自性を保って、新しい財を生産可能な点であって、都市の資本によって生産工場だけを誘致した地域は、都市の定義を満たさない。補助金や軍隊によって経済を維持している地域も同様である。

 一方、この新陳代謝の中で都市には景気の波が押し寄せるが、本来の都市に独自性、多様性があるのならば、それを乗り越えて新しい財を生産し生き延びることがある。とは言え、同一通貨の経済圏下では、より大きい都市の影響を受けやすいため、小規模の都市の命脈は、どれだけ大都市と対等な交易関係を結び、同一の経済圏から離脱できるかにある。

 

 と、まあ、著者の主張はだいたいそんなところ。

 出版から30年近くが過ぎて、世界が大きく変わっているのは、この本では、あくまで財の生産を中心に語られているけれども、現代社会のイノベーションの多くは、サービス分野によるもので、果たしてサービスの提供に関しては、ここで著者が主張するような模倣と改良による大都市経済からの離脱が可能なのか、という点。

 また、著者は金融機能の発展によって、通貨の障壁を残したまま、交易の効率性を高められる、といった主張も見られるのだけど、まさに現代では、ユーロの成立に限らず、ドルを基軸通貨とした世界経済の広がりがある中で、世界の景気循環がより関連性、緊密性を増していて、著者が警鐘を鳴らしているような、多様性を失い、一元化した世界に近付いているように思える点。

 著者は、イノベーションを喚起しつづけ、多様性を維持することが都市の発展に不可欠だと言うのだけれど、日本の地方都市で果たして、自立可能な多様性を今後も喚起しつづけていけるのか、東京の後背地として生きるべきなのか、あるいはフラットな世界の一部に飲み込まれてしまうのか、我々にできることは、そう多くない、と後ろ暗い気分になる本でした。